『人形師の夢』









登場人物

人形師の男  男の作った人形たち




ピンスポットのあたる中肘掛け椅子に男が一人座っている。男の独白。



男「どうも皆様はじめまして。私は、人形師です。今まで数多くの人形を作ってきました。
フリルのついた服を着た女の子の人形や、タキシードを着た男性の人形、猫や犬の人形、そりゃもう色々と。」


様々な衣装をつけた人形が男の横にぐったりと座り並ぶ。生気は無い。

男「いつのころからでしょうか。私の作った可愛い人形達は、私が望むと、望むがままに動くようになりました。」


男、横の人形達を指で指し示す。命が吹き込まれたように動き出す人形達。


男「さぁ、皆私の為に踊っておくれ。歌っておくれ。私を楽しませておくれ。」


人形達はいきいきと動き始める。人形達のダンスパーティーが始まる。


人形A「さぁさぁみんなパーティーよ!ご主人様がお望みよ!」
人形B「あたし、歌うわ。」
人形C「あたしはパントマイムでご主人様を楽しませましょう。」
その他の人形「(声を揃えて)さぁさぁみんな踊りましょう。」


軽快なジャズ、歌う人形あり・パントマイムをする人形あり・踊る人形あり。そこはさながらおとぎばなしの舞踏会。


男「私は手を叩いて笑います。軽快なジャズは私の心をわくわくさせました。またある時は、せつない
気持ちにさせてくれと人形達に望みました。」



二人の男女の人形がもたれあって座っている。生気は無い。男、指をさす。人形の寸劇が始まる。


男の子人形「どうしてキミは僕のものになってくれないの?」
女の子人形「だってあたしは伯爵様のものだもの。」
男の子人形「そんなことはわかっているさ。」
女の子人形「あなたがあたしを欲しいと思うその気持ちが、恋だと言い切れて?」
男の子人形「恋以外だったらなんと言うんだ?」
女の子人形「伯爵様の持ち物だから、あたしに価値がついているのだとは思わないの?」
男の子人形「どういうこと?」
女の子人形「伯爵様の手を離れたら、あたしは光り輝く宝石ではなくなるわ。きっと。」
男の子人形「そんなことあるもんか。キミは宝石だ。誰の手にあろうとも。」
女の子人形「…その言葉だけで、あたしは十分だわ。もう行って頂戴。伯爵様がお戻りになる前に
あたしの前から消えて頂戴。」

男の子人形「どうして…どうして…」
女の子人形「思い出だけが欲しいの。思い出ならば、額縁に入れて大切にしまっておけるでしょう?
汚れたり傷ついたり色褪せたりしない…」
男の子人形「僕は、どこでも、キミを思っているよ…。」




男「私は楽しくなって、様々なことを人形達に命じました。漫才をしろ、歌を唄え、社交ダンスを見せてみろ、
殴り合いの喧嘩が見てみたい…エトセトラ、エトセトラ。そこはさながらパラダイス。12畳の作業場という名の箱庭に、
私は魅せられた。いつしか私は売るための人形を作らなくなりました。外にも出ずに箱庭に閉じこもる毎日。
当然人間が生きていく為にはお金や食べ物や色々な物が必要です。しかし、その『生きること』を放棄しても
構わないほど私の作った箱庭は秀逸だった。」



男は一気に喋り終えるとがくんと首を垂れる。男の周りを、人形達が囲む。覗き込む人形達。


人形D「ご主人様大丈夫?」
人形E「ご主人様?」


男、顔を上げ人形達に向かってにっこりと微笑む。


男「大丈夫だよ。ああ、僕は人間なんだね。少しだけ、短い夢を見ていたよ。」
人形F「じゃあ、ご主人様も私たちの仲間になりましょうよ。」
男「できるかな?」
人形G「私たちがお手伝いしますわ。」
男「じゃあ、お願いしようか…」


照明落ちる、そして再び光がつくと男はシャツとスボン姿で椅子に座っている。しかし以前と違う、微動だにしない。


男「そんなこんなで、僕は今人形として生きています。それは死んでいることと同じだと思われる方も
いらっしゃるかもしれません。しかし、僕は確かに生きている。考えてみてください。あなたは今、本当に
生きていますか?ひょっとしたら、僕らの仲間が大勢いらっしゃるのでは?よーく自分の身体を見てみてください。
手のひらに縫い目があったりしませんか?まぁ、いいんですよ。いつでも僕らはあなたがこの箱庭にいらっしゃるのを
待っておりますからね。それでは皆様、ごきげんよう。」






END.



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