『Headache』


月の無い夜、空に浮かんだキレヱな男。

行かないで、なんて陳腐な言葉はあっという間に忘却の彼方へ。

あたしはただキラキラ舞うホコリと眼鏡の破片を星と見た。


「アンタのその腹筋がスキ。」
乳白色の水の中で目を閉じているキレイな身体の男。バスルームは
マイナス20℃の海のよう。

「アンタのその黒い髪がスキ。」
背徳とか不道徳とか倫理観に欠けるなんて言葉はあたしは知らない。

「アンタのその細い腰がスキ。」
あたしの身体もいつか腐敗物に、成るのだからして。

「アンタのその節の浮いた指がスキ。」
薄荷入りの煙草を好んでいたのを想い、匂いだけ甦らせては空を見つめる。

「アンタのかけてるその度の低い眼鏡がスキ。」
砕けてしまった物の代わりを用意して。

「どうして何も言わないの・・・・・?」
バカみたいな問い。


ブレーキ。光。夜。誰も居ない一本の道路。


「アンタの身体が空に浮かんだ時ね、天使に見えたのよ。」
頭痛が酷い。誰かあたしに良く効く頭痛薬を頂戴。

「バカな事言うんじゃないって、アンタは怒るかもしれないけど・・・」
一度も姦淫せずに死んだ女は天使に成ると昔聞いた事がある。

もちろんジュンは女なんかじゃないが。原理は一緒のような気がする。

月の無い夜に誰とも姦淫することなく清らかな身体のまま。

強い力で空に浮かんだキレヱな男。

「・・・腐らないように氷とか入れたほうが良いのかしら?」
氷なんて入れたらますます頭痛が酷くなるだろう。

『姉貴、ヘンだよ。俺達は・・・』
『アンタは黙ってればいいのよ。』
『おかしいって!ヤメろよ!』
『うるさい。』
『くそっ・・・・気持悪ぃ・・・・』
『あたしはきっと一生誰にも触れて貰えないの。』
『だから俺を?』
『アンタはあたしから離れられない。』
『そんなの知らねぇよ!』
『・・・傷つくことと傷つけられることはイコールなのよ。』
『・・・・っ・・・・!』
『ジュン!戻りなさい!』
『俺に触るな!』


思考停止、スローモーション。

悪趣味なネオン、真っ暗な闇。

あたしに最期に投げかけられたのは、拒否の罵声。


「・・・・動かなくなったアンタも、やっぱりキレイだわ。」


頭痛が、酷い。









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