『HEAVEN』



もし世界に、おまえの居場所なんか無かったら。

どうする?


Children of the children of the children…go through the wall and go to H・E・A・V・E・N



「こんにちは、おばさん。」
「あら、ハナちゃん。どうしたの?その腕。」
「ううん……」
「もうねぇ、ちょっと聞いておくれよ。最近の若いもんはなっちゃないよ。ゴミの
分別も出来ないんだから。ほら、これ。」
「あのねー…あたしを…」
「ん?なんだい?」
「あたしをゴミに出すとしたら、燃えるゴミか燃えないゴミ、どっち?」
「そうだねぇ…。」
「どっちだと思う?」
「あ!肉は燃えるゴミで骨は燃えないゴミじゃないかい?」
「そうかぁ…。」


彼女は可燃物と不燃物で構成された身体を持て余し、ゴミの島に住んでいる。
この島にまともな人間は居ないという。
ここにいるのは何処かが壊れた人間のみ。
本当の名前すら捨ててしまった人間達が住むゴミの島。
ウワサでは天国に一番近い島…。


ゴミの山の頂上に立ち、女はスモッグで汚れた空を見上げる。がさりと足音がした方を見やると、見覚えのあるシルエット。
「あぁ…ネズミ…またイジワルされる…ヤ…」
大きくて細い身体をゆらりと揺らし、ネズミが両腕に包帯を巻いた細い女の前に立ちはだかった。
「また一人でウロウロして…そんなに俺にイジメられたいのか?」
「わざとじゃなの…イジワルしないで…」
「この前のキズ、まだ治ってないんだな。」
「ん…。」
「治りかけのキズ、もう1回キズつけると痛いんだよな。」
「…やめ…っ…」

イタイイタイ…イタイイタイ…それでも一緒に居たいのだと女は呟く。

「…どうしてあたしにばっかりイジワルするの?」
「おまえが細っこくて儚げな雰囲気をもってるってだけで、俺がおまえをイジメる理由には十分だ。」
「あたし、もうすぐゴミになるから。だからもうイジメられない。」
「ゴミになんかさせねぇ。おまえは俺のだ。」
「肉は燃えるゴミで骨は燃えないゴミだって。ゴミ捨て場のおばさんが言ってた。あたしはゴミになるんだよ。」
「おまえは、俺のだ。」
「ねぇ、キスして。溶けるくらい甘いやつ。」
「うるさい。黙れ。」
「あたしが怖い?」
「怖くなんかない。俺はおまえを征服することもできる。」
「どうやって?」
「力づくで犯すこともできるし、首を締めることもできる。」
「ウソツキ…あたしが怖い癖に。」
「そんな細い腕と薄い身体のどこが怖いんだよ。」
「自分の命を諦められるところ。」
「ゴミになんかならないって、おまえホントは分かってんだろ?」
「ホントのことは見たくないの。」
「見たくなくても見なきゃいけねえこともあんだろ。」
「何か、今日はいい人だね。」
「別にいい人なんかじゃねぇよ。」
「キスして。」
「……………」

ネズミの唇がゴミに成ることを望む女の唇に重なる。

まるで、一枚の絵みたいに。

「焼却……」
「えぇ?」
「焼却所まであとどれくらいだろうね?」
「まだまだ、だろ。」


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「おやおや。あそこに可愛いアベックがいるねぇ。」
「ちょっとお母さん、アベックなんて古いよ。カップルって言ってよ。」
「何だい、アベックはアベックじゃないか。」
「あたしあの2人知ってる。ネズミとハナよ。」
「珍しいねぇ。あんたが人の名前を覚えるなんて。」
「お母さん、あたしの名前は?」
「…何だっけ?」
「…グミ。」
「ああそうだったそうだった。」
「しっかりしてよ。」




…in the HEAVEN.








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